京都メディアフォーラム例会記録(2004.7~2011.12)

京都メディアフォーラム例会記録

山形国際ドキュメンタリー映画祭を振り返って

油断している内に、いつの間にか終わっていた。私自身は、今年初めて参加した映画祭であった。1989年から10年以上も続いている国際的なドキュメンタリー映画祭として、国際的な評価を得ており、今年参加できた喜びは存外である。映画、あるいはドキュメンタリー関係者と様々な場面で遭遇できた初めての機会としては、予想以上の成果があった。市内中心部の映画館や公民館などの上映施設を使用して、多くの上映作品では、立ち見客も出るような盛況であった。そこに集まるのは、映画愛好家にとどまらず、映画制作者、映画批評家、映画配給、メディアなど映画にまつわるありとあらゆる国内外の関係者達であった。


他方で、10月5日から7日までに数日間しか参加できなかった門外漢としては、国際的な評価はともかくとして、地元とイベントがどのようなつながりをしているかということに目がいってしまう。その点で言うと、かなり貧弱だと言わざるをえない。人口25万人の地方であれば、期間中のべ2万人の参加イベントが開催されれば、市内中がそのイベント一色となってもおかしくない。


しかし、現地に着いた金曜日には、JRに大きな看板もなく(あったかもしれないが、目立たなかったのだろう)、駅舎にも垂れ幕がなく、上映会場以外はイベントの存在をまったく感じさせなかった。夜には飲み屋街の普通の店に入ったが、そこでも映画祭の存在はほとんど視野に入っていなかった。運営主体が今年から市役所からボランティアに移ったことが影響しているのかどうかはわからないが、あまりにも静かだったのは意外だった。


もっとも、そうした印象も週末になると少し変わってきた。それは、週末にめがけて観客が全国から殺到したためである。しかし、それでも町全体の印象は変わらない。参加者としての要望としては、

  1. 上映会場間の徒歩距離がかなりあるので、市内循環バスの一日乗車券(300円)の利用を呼びかけてほしい。しかも、運行時間を午後6時半で終わらず、延長してほしい。
  2. 同じ理由から、レンタサイクルなどの移動手段を準備してほしい。バスを待つよりも、自転車の方がはるかに便利だ。自転車の場合、駐輪場も必要になる。
  3. 週末には、駅付近のコインロッカーが満杯になるが、その数を増やすか、上映拠点である中央公民館付近にコインロッカーを確保してほしい。
  4. 公式カタログの上映スケジュールと作品解説との対照がわかりにくい。購入した割に、移動時には役に立たなかった。
  5. 雨天の対策を考えてほしい。今回は天気が続いたが、今後を考えてカサ貸与とか、雨天対策を練る必要がある。
  6. 地元を視野に入れた、一般向けの広報体制や地元経済とのつながりを整えてほしい。世界から来る客と出会うのが県外者ばかりではもったいない。
  7. 上映会場の座席の貧弱さ(フォーラムを除き)は、中央公民館から変えてほしい

など数々ある。


こうした要望はありつつも、大変好感を持ったことも数々ある。

  1. 宿泊費が異常に安いこと。他都市と比べて、かなり安いので助かる。
  2. 駅前の中途半端な雰囲気とは別に、中央公民館付近の賑わいは、地方としてはかなりいい。かつて豊かな町であったことが偲ばれる。
  3. 豊富な果物に囲まれた秋の味覚を十分に楽しめたし、芋煮や山菜料理、肉料理など豊かな食生活を経験できた。
  4. 野外の芋煮会という伝統に触れることができたが、朝から野外で静かに食事する習慣は東北らしい。酔っぱらいも少なく、夕方には終わるという習慣は、野外上映会の客とはなってくれなかったが、健全だと思う。
  5. 町の人は親切であり、互いに譲り合いながら車の運転をしているのも、県外者にとってはありがたかった。

これも数え上げればきりがない。

http://d.hatena.ne.jp/images/admin/markup_url.gif2007-10-07 - つつい・めでぃあ
最後に、映画祭自体を更に盛り上げていくためのアイデアを提示したい。
世界の映画関係者があつまる環境は、映画関係者としても、また研究者としてこうした人々との対話を通じて、新しい知見を得ることができれば、非常に効率的であり、有益であると思う。けれども、こうした公式のイベントだけでいいのだろうかという点は気になる。


つまり、公式に上映される映画以外に、コンペに応募したが落選した作品などを上映するインフォーマルな活動がもっとあっていいのではないだろうか。演劇のメッカであるブロードウエイでも、それにとらわれないオフ・ブロードウエイやさらにオフ・オフ・ブロードウエイなどが次々できたように、山形でも正式上映作品出展者以外が市内のあちこちで上映したり、パフォーマンスをしてもいいのではないだろうか。


私が今回関わった河原でのは、準備不足や広報体制の悪さのために、参加者はほとんどいなかったが、それを作り上げてきた者達のエネルギーは、公式会場に引けを取らない。軽トラックにすべての機材を積み込んで、現地で野宿をしたり、トラックの周辺にチラシを貼りまくった姿は、未完成ながらも、未来を予感するものであると思う。その意味で、将来性のある企画に先端的に取り組めたことには心から満足感を持っている。他の多くのクリエータやお祭り好きの人々が集まって、映画祭全体を盛り上げるところから、次の時代が始まると思う。次の夜明け前に立ち会えた幸運に感謝したい。


追記:
新井ちひろさんが、JANJAN河原上映会のことを記事にアップしていました。