京都メディアフォーラム例会記録(2004.7~2011.12)

京都メディアフォーラム例会記録

携帯ゲームは、エコと相性がいい


携帯ゲームと言えば、待ち時間の暇つぶしに無料で遊べる娯楽という側面が強い。そこにエコロジーをテーマにしたゲームが始まっている。携帯電話で無料で遊べる「エコゲーフォレスト」というサービスが今年1月から始まり、現在、1万名程度のユーザがいるという。


それについて、ライブウェア取締役花屋雅貴さんが授業に来て話してくれた。ゲームが好きで、プログラマーとして大手ゲーム会社に就職後、いくつかの会社を経て、現職となった。彼の話を聞いていると、私がいだくシステム担当者のイメージとはまったく異なる。システム担当者といえば、業界用語で内向けの言葉を使って、どちらかというと対話が苦手な寡黙なタイプが多い。しかし、花屋さんは、そのイメージとのギャップを楽しんでいるように、饒舌だ。しかも、対話型の外向きの言葉を使って、外向けの話題との接点を求める話し方をする。


かといって、なぜ携帯ゲームでエコロジーなんだろう。もちろん、ゲーム会社なので、会社としての特色を出し、収益を上げることが前提になっているのだが、彼によれば、NPOにせよ、企業にせよ、思い入れを持った仕事は継続することが重要であって、そのためには一過性の寄付や助成金に依存するのではなく、事業収益が循環する仕組みを作る必要がある。だからこそ企業の場合、収益を上げることが必須であり、その将来性を買われて、サービスが始まったのである。


エコ活動自体は地球温暖化問題にせよ、リサイクルにせよ、大きな国際問題となっているにも関わらず、一般市民の関心は高くない。花屋さんによれば、その限界を破るためには、環境活動家からのアプローチよりも、携帯ゲームユーザと接している企業からのアプローチにも意味がある。彼は、環境団体にあちこちにメールして、専門家と話し、理科系出身らしくエントロピーやエネルギーの循環などをどう実現するかという知識も豊富になり、それを元にしてゲームを作ったのである。

もちろん、モバゲータウンを筆頭に携帯ゲームは、気晴らし的な欲望を刺激することが主流である。もちろん、そこからの収益が重要であることはもちろんだが、それでは対抗企業とは差別化できない。花屋さんからは、絶えず「ゲームで世界観を伝える」という表現が語られる。もちろん、この場合の世界観とは、社会に対する深遠な議論というような意味ではなく、エコへと何らかの橋渡しするメッセージという意味である。


それが伝わるためには、ゲームだけでなく、キャラクターがユーザの心をとらえる必要がある。その意味での努力を惜しまない点が、環境活動家とは大きく異なっている。


このプロジェクトは、既にマーケットが存在していて、その流れに乗るというマーケットインの発想ではなく、これから新しい価値観を作り出して、新しいユーザ層を獲得するというプロダクトアウトを重視する。このことで、彼は、携帯ゲーム業界の主流とは差別化し、環境NPOからの新しいエネルギーを受け入れ、若者とエコロジーとの垣根を取り払おうというビジネスをおこなっているのである。こうしたサービスは、企業活動としての意味とは別に、花屋さん自身が実現したい社会イメージがあってこそ初めて可能になった。


学生に実際にこのサービスを体験してもらった上で、学生からの厳しいアドバイスをもらいながらも、今後の展開に向けた多くのヒントをもらったようだ。携帯ゲームの世界になると、私はまったく歯が立たない。学生からこの世界を翻訳してもらいながらも、むしろ花屋さんの意図は真正面に受け止められたはずだ。


蛇足ながら、マインドマップを使って議論を見事にビジュアル化する彼の仕事ぶりを見て、その便利さを再認識した。私自身は一度挫折したのだが、素晴らしい実演を見て、今度は失敗しない気がする。ソフトのバージンアップをしよう。